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『深い霧が晴れると、そこには荒馬がいた』

 叙情的なタイトルをつけてみましたが、実はこれ、LPCの患者さんのことです。

 LPCと言うのは、レビー小体型・ピック病の混合型認知症の略。河野先生の造語です。
物わかりが悪い私に、患者さんが「まだわからないのか。それならほらまた!」と似た状態を示し、問題提起をして下さいます。しっかり肝に銘じて今度はうまく乗り切れるように、書き留めておきます。

CASE1)
とにかく初回のご本人は眠くて眠くて…。家族からの病歴とCT所見を元にLPCと診断したものの、初回のこの方はレビーが前面に出ており、ピックらしさを感じることはありませんでした。外来でためらいなくニコリン注射を打ったところ、早くも帰りの車の中で多弁に。それだけならまだしも、落ち着きなく何回も家を出て行くようになり、一度は警察まで呼ぶはめに。慌てて抑制薬であるウィンタミンを追加処方。
次の外来でご家族に
「ウィンタミンが出て本当によかった。」
と言われた時には、自分の診療でご家族に別の苦労を与えてしまったことを申し訳なく思いました。

 この方はウィンタミンが出てからも、診察室で座るのに少し時間がかかり、座るとよく意味のわからないことを怒ったような口調で言います。そして!腕組みしながら、よだれを垂らして寝てしまうのです!この姿を見た時には、これぞLPC!!と膝を打ちたくなるほどの衝撃を受けました。

 やはり日中の傾眠が目立つため、ウィンタミンを併用しながら再度ニコリン注射を行うとよい所に落ち着く可能性がありますが、奥様は「わかるんですけど…以前の落着きなさを思うと、もうちょっとだけニコリンは待って下さい。」と言って、ニコリン再トライは保留となっています。家族にこんなトラウマを与えてはいけません。

CASE2)
 前医の精神科でアリセプト5mgが出ていたレビー小体型の方です。

 長谷川式は考える集中力がない様子で全く答えられず、本人も「こんな状態になってしまって…」と非常に戸惑われています。眠いんだから質問に答えられないのはあたりまえなんですよ、必ずよくなりますから、と励まし、アリセプト中止を指示。その日はニコリン注射を打って帰宅としました。幻視に対して処方した抑肝散は、飲むと食欲が落ちるとのことで継続できなかったようです。

次の診察日。意識障害はだいぶ改善し、日中もずっと寝ていた状態から、茶の間で座って過ごすことが多くなったとのこと。しかし同行したお嫁さんは言いにくそうに、

「一長一短…ですかね。」

とおっしゃいました。意識がはっきりし、自分の思いを言葉にしたいのに、語義失語でうまく伝わらない。回りくどい説明になってしまい、それでもうまく伝わらないと、やつあたりのような攻撃的な言動が目立つようになったとのこと。この方もレビーの霧が晴れたらピックが目立つようになったケースです。慌ててウィンタミンを追加し、うまくいけばその時に処方を開始できるかも…と目論んでいたリバスタッチパッチは次回の宿題としました。

以上2症例とも、カルテにはっきりLPCと診断名を書いていたにも関わらず、目の前のレビーらしさに気を取られて、ピックの陽性症状対策をとらなかったことが反省点です。目の前でウツラウツラする方に、心情的には抑制薬を出しにくいのは事実です。しかしピックの陽性症状の強さを考えると、LPCと診断した以上やはり先を見越して対策を立てなくてはいけないようです。最初からほんの少しウィンタミンをかませる、もしくは家族の方に「こんな時には飲ませて下さい」と説明してあらかじめ渡しておく、というのがいいのかもしれません。まだまだ修行が必要です。

写真は、実家のある柏で清水公園を訪れた時のもの。荒馬というにはちょっと迫力不足?
『深い霧が晴れると、そこには荒馬がいた』_e0320283_0541777.jpg

by kasama-hospital | 2013-11-17 00:53 | 認知症・介護

今日も張り切って診療中


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