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グラム染色強化合宿

こんにちは。台風の本島上陸を免れてホッとしています。

不器用な私、認知症一色だった数ヶ月を経て、最近もう一つ非常に気になっていた宿題に着手しました。それは、グラム染色。

2年前に、当院はよりよい感染症診療のツールとして、グラム染色を導入しました。(ご興味がある方はこちら)あれからグラム染色は感染症診療の道しるべとして日々使われています。肺炎や尿路感染でグラム染色を行うことが当然になった、染色もきちんと出来るようになった、そして顕微鏡を覗いて…その結果が臨床行動に100%反映されているか?それが今回の‘宿題’です。

 典型的なケースはよいのです。顕微鏡を交互に覗きながら検査技師の岡安さんとニッコリ。筑波大からの学生さんがいれば一緒に顕微鏡を覗き、目の前の結果からどんな抗生剤を選ぶかをディスカッション。数日後にフォローアップのグラム染色を行い、きちんと薬が効果を上げていることを確認できます。こんな風にいくと、非常に清々しい。しかし、いつも竹を割ったようにスパッといく訳ではありません。正直、自分の想定した結果と異なる結果が目の前にあり、どう解釈すればよいのかわからない時も。そんな時は、2人でう~ん、あぁでもこうでもないと話し合うのですが、結論が出ずに奥歯に物が挟まったような気持ち悪さが残ることもあり。グラム染色の達人が近くにいらして、その場ですぐに指導を仰げれば…ここはどうなんだろう?あれはどうなんだろう?と日々の疑問が積もっておりました。

 実力を上げるための対策の一つとして、これまでグラム染色師匠である相原先生の主催する『グラム染色中級試験』を受けてきました。これは公的な資格ではなく「茶道や華道のお免状のようなもので、楽しみながら実力をつけてもらうことが狙い」だそうです。初級資格を1年前に取り、現在中級に挑戦中。定期的にメールで送られてくるWebスライドの所見を取り(i-viewerというソフトで、目の前でスライドを覗いているようなリアルな世界が広がり、初めて見た時には感動しました)所見用紙を先生の元に送り返すと、採点されてスコアがつくのです。年間5回のテストで平均点が80点以上で合格。

実は私、既に5回中4回は受講済み。点数こそ現時点で何とか規定ラインを満たしているものの、回数を重ねることで問題点がくっきりと浮き彫りに。菌種の同定です。同じことを相原先生にも指摘されておりました。検査技師と異なり、医者は圧倒的に顕微鏡を覗く機会が少なく共通のウィークポイントなのだそうです。
 最近改めて細菌ごとの特徴をノートにまとめ直し、関連する感染症の教科書を読み返した時点で、機は熟した、と感じました。これから先じーっとアトラスを眺めていても、これ以上の進歩は望めない。独学の限界かもしれません。今こそ十分な知識を持っている師にマンツーマンで指導を受ける時期です。

そのような訳で、10月17日東京でトレーニングを受けてきました。
午前中は、先生の豊富なコレクションスライドから、菌種の同定に絞って次々と説明を受けていきます。午後からは、私が持参した実際の症例スライドを見て頂き、自分の診断や解釈、治療についてディスカッション。
 研修を終えた感想としては…言葉で表せないほど濃厚で充実した、豊かな時間でした。

菌種の同定については、『点と点がつながって、線になった』イメージ。単発でAという菌はこう、Bという菌はこうという知識だったのが、じゃあAとBの鑑別ポイントはどこか、Aと似ていて間違いやすい菌は他にどんなものがあるか、臨床の場ではどのように判断するか、治療は行うべきかという周辺知識が豊富に与えられ、頭が非常にクリアになりました。これまでいまいち特徴をつかみ切れなかった細菌についても、いくつかのポイントを教えて頂いてその目で見てみると、あたかも特殊な眼鏡を装着したようにくっきりと浮かび上がるように見えてくるという感動体験も。

マンツーマン指導のよい所は、自分の都合でいくらでも脱線(?)可能なところです。日頃の臨床に溜めに溜め込んだ疑問を、関連するスライドを見ながらここぞとばかりにぶつけさせて頂きました。どの方向からぶつけてもしっかりと受け止めて下さり的確に返して頂けるという空間には、何とも言えない心地よさがあります。お話をすればするほど知的好奇心が刺激されると言うか。自分の症例についても、目から鱗のご指摘もあり、グラム染色の可能性、奥の深さを改めて思い知りました。

『一回で片をつけようと思うな。臨床状況とマッチしない所見であれば、何度でも検体を取りなおせ』『感染症は須らく日和見的である』などの診療スタイルに関わる格言あり。これまで培養結果で目にして右往左往していた弱毒菌についても『弱毒菌が原因菌となりやすい現代において、培養には限界がある』からこそグラム染色から総合的に判断する重みづけが必要なのだと、非常に勉強になりました。『検体を粗末に扱うことは、患者さんを粗末に扱うことと同じ』というのも、以前相原先生から教えて頂いた言葉で、今でも肝に銘じています。

 1日が終わる頃には、目の前の霧が徐々に晴れていくような清々しさと、疲れているにも関わらず明日からまた頑張っていこうというエネルギーで満ち足り、高揚した気持ちで会場を後にしました。(教えて頂いたあれやこれやを考えながら駅に向かい、慣れない東京で道に迷ったのも仕方がないことです。)

 ‘次の一手’は、この収穫を翌日からの診療に生かすこと。知識の再整理はもちろんのこと、今後も継続的にご指導を頂けるシステム作りのために、顕微鏡用カメラの購入を画策中。現在は情報収集の段階ですが、カメラが手に入り日常的にご指導を仰ぐ環境を心待ちにしています。
 一日お付き合いを頂いた相原先生、会場をお貸し頂いたスギヤマゲン様、貴重な機会を本当にありがとうございました!
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by kasama-hospital | 2013-10-26 10:51 | グラム染色

もう一つのピック感

 朝夕うんと冷え込み、夏から一気に冬に足を踏み入れてしまった感じですね。

 今日は、LPC(レビーとピックの複合)の認知症患者さんの改善例をご報告します。発症は5-6年前。家族を泥棒扱いしたり、連れ合いの浮気を疑ったりと攻撃的な言動が目立ちました。家族に受診を促されるも拒否。精神科を受診したのは3年前のこと。この頃には、大声で罵る、つねるなど周囲への暴力も出て、精神科への入院手続きまでしたくらいですから、陽性症状はかなり激しかったのでしょう。私はここまで聞いて「ピック病かな…」と思いましたが、受診先では「アルツハイマー型認知症」と診断されています。レスリン、パキシル、ランドセン、リスパダールなどが処方されました。

 恥を承知で白状しますと、数か月前に一度感染症で入院した際、私はこの方の認知症にノータッチでした。アルツハイマーなのに、なんで抗うつ薬?という素朴な疑問がフッと湧きましたが、コウノメソッドを本格的に開始する前です。認知症診療にまだ自信がありませんでしたから、専門の先生の処方に余計な手出しをしてますます悪化したら大変…と見なかったことにして、感染症の治療に専念したのです。

 その結果、病棟はとにかく大変でした。私が、ではなく看護師さんが…。昼夜を問わず「××ちゃ~~ん!!!」と家族を呼ぶ叫び声が廊下にまで響いていたことと、怒りスイッチが入ると目が座って額に2本くらい横じわが出来て、それがワナワナ震えていたことは覚えています。それでも朝は1階の外来ブースに降りてしまい夕は回診を終えて病院を離れるとその叫び声は聞こえてこないのをいいことに、当時の私はつまりは逃げてしまったのです。あの時は、本当に看護師さんごめんなさい。私が感染症の治療に専念したせいか本人の免疫力が強かったせいか(こっちでしょう)この時はあっと言う間によくなり、短期間での入院ですんだのがせめてもの幸いでした。でも、この方の入所する介護施設では、24時間365日この方と接するのがお仕事です。もしかすると退院の知らせを複雑な気持ちで聞いていたかもしれません。

そして先日、またその方が入院することになりました。看護師さんも内心ムム…と思ったはずです。今度は血液培養から菌も検出され前回より長期の入院が予測されます。よ~し覚悟を決めようと、ご家族に当院で内服薬を調整させて頂くようお願いし、了解を頂きました。ただし家庭の事情により、強力な助っ人であるフェルガードは今回は登場できません。

歯車様固縮はしっかり陽性で、安静時振戦も体幹傾斜もあり。なんと寝言も幻視も意識障害もあって、レビースコア10点。尿失禁、診察拒否、二度童、語義失語、スイッチ易怒、CT所見もありピックスコア6点のレビーピック複合型と診断しました。全体的なイメージはピック病のエネルギー過剰です。

まずは陽性症状の制御でウィンタミン6mgを一日6包。これで大方は制御できるはず!効き過ぎて眠そうだったら減らしてね、と自信を持って処方したものの、翌朝も、翌々朝も、看護師さんから「昨晩も寝ないで叫んでいました。」「点滴を自己抜去しました。」との報告。え~~~。慌ててマニュアルノートを引っ張り出し、薬を調整しなおし。これを繰り返し、最終的にウィンタミン72mg(最高量)、セルシン6mg、レンドルミン1錠でようやく穏やかな笑顔を見せるようになった時には、本当にほっとしました。続いてリバスタッチパッチ開始。

チャレンジテストを経てメネシットも開始して少したった頃のこと。ナースステーションでカルテを書いていた私の前を一人でトイレに歩いていくおばあちゃんが。看護師さんに声をかけられ、‘あの患者さん’だと気づいた時には本当に驚きました。腰は曲がっていますが、杖も使わずに一人で歩いています。トイレに行く前にも長いことナースステーションの車いすに座っていたのに、ニコニコして黙っていたので私は気がつかなかったのです。これが一日中大声で叫びっぱなしだった方と同じ人だとは…。

 たまたま月単位の入院治療が必要にも関わらず、ご本人の全身状態は悪くないというタイミングが重なり、私と看護師さんは患者さんが改善していく経過を目の当たりにするという幸運に恵まれました。まるで別人のように「ありがとうね~。あんたの手はあったかいね~。」と私の手を握ってくれる患者さんの両手を、こちらの方こそありがとうという気持ちで握り返しました。そして、あ、これもまたもう一面の‘ピック感’なのかな…と思いました。

 一般的にはピック感と言うのは、ピック病の患者さんに対してマイナスのイメージで使われる言葉です。初診のピック病患者さんが腕組み足組みをして診察に拒否的、訳もなく不機嫌な様子はかなりのインパクトがあり、その姿だけでピック病らしいと思わせる雰囲気があります。しかし一方で、私が接した何人かのピック病患者さんは、それだけではないピック病らしさも垣間見せてくれました。診察室で子供をあやすために置いてある犬のぬいぐるみを撫でる男性、エネルギーが制御された後に見せる満面の笑顔や警戒心なく腕などを触ってくる姿、それは‘二度童’の一面です。一度童、つまり現役の乳幼児と日々格闘している母親の私は、こちらのセンサーは少々敏感です。初診のピック病患者さんを前にすると、まだ数人ながら改善したピック病患者さんを思い出し、ああいう笑顔をまた引き出せますように…と願いながら診療を始めるのです。

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*写真は、先日1歳のお誕生日を迎えた次男の誕生日ケーキ。長男がフライングしないよう、蛇が護衛しています。護衛効果は抜群でした。
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by kasama-hospital | 2013-10-05 04:11 | 認知症・介護

今日も張り切って診療中


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