認知症と入院

 当院は多くはないものの入院病床を持っています。入院ができるということを、認知症診療においてどのように有効活用できるか?これは今後の課題の一つです。メリットは、昼夜症状を見守りこまめな薬剤調整が出来ること、陽性症状で疲弊しきったご家族にほんの少し休んで頂けること。デメリットは言うまでもなく「環境がガラリと変わること」です。慣れ親しんだ自宅から離れること事態が、患者さんを落ち着かなくさせてしまうことは、残念ながら事実です。このあたりを十分理解できていなかった私は、家族からのSOSに対しコウノメソッドがあるさと自信ありげに入院をお受けして、数名で痛い目に遭いました。

圧倒的な失敗パターンは、体がピンピンして自覚的な身体症状に乏しい時に、認知症の症状コントロールのみを目的に入院して頂いた時。陽性症状を制御しきれず数日で、下手をすると入院したその日の午後に退院にならざるを得ないという残念な結果に。本人は病識もなく、自覚的には痛くもかゆくもないのですから、自分がなぜこんないきなり場所にいて、自宅のように自由に動き回れないのか納得がいかないのも当然ですね。うちの病院の看護師さんはかなり我慢強く対応してくれますが、怒って抑制薬を飲むどころの騒ぎではなかったり、激昂した状態で飲んでも焼け石に水で効果に乏しかったり。そうこうしているうちに呼び出されて付き添うこととなったご家族が「いいです。もう家に連れて帰ります。」という展開に。本当に面目ない。

一方肺炎や尿路感染、脱水などで体が弱っている時は、

「このままじゃご飯も食べられないし、少し入院していきましょうか?」

という外来での声かけに、コクンと頷いて頂けることが多く、一応「合意の上の入院」ということになり、しめしめ…です。スタート地点からして違うのです。2階に上がると多少は落ち着かなくなることもありますが、なにぶん数日は体が弱っているので上の例ほど過激にならない印象が。脱水や感染症が落ち着く頃には、それなりに病院の環境に慣れていることが多く、‘ついでに’認知症の評価や薬の調整をしやすい。ご家族にも「肺炎で入院させたのに穏やかにしてもらった」と+αで評価して頂けることが多く、お得感があり。こんな言い方は失礼かもしれませんが、『弱った時が介入しどき』というのが現時点での私の結論です。そのようなチャンスが訪れない時は、できるだけ外来で頑張るのがお互いのためかもしれません。

 当院では入院中の患者さんにも『家庭天秤法』(病棟天秤法?)を適応し、処方した抑制薬が弱すぎて興奮が強ければ抑制薬を増量し、効き過ぎて昼間からウトウトしているようであれば減量する…という調整を行える体制を取っています。自宅でウィンタミンを使って穏やかに過ごされていた方が、誤嚥性肺炎で休薬した途端に「このデレ助!」「ブス!」「うるさいんだよ!」とバラエティ豊かに悪態をつくようになったり、午前中はその辺りに唾を吐いていた方が、ウィンタミンを飲んだ午後はケアにも抵抗せず穏やかだったなどの変化を目の当たりにした看護師さんがしみじみ

「先生、抑制薬って本当に人格を変えるんですね…。」

ナースステーションでこのつぶやきを聞いた私は、こうやってスタッフの認知症症状や薬剤に対する知識が深まるということも、入院治療がもたらす副次効果なのだな…と実感しました。

 さて、今日も一日頑張りましょう。皆様もよい一日をお過ごし下さい。
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by kasama-hospital | 2014-02-19 07:06 | 認知症・介護

今日も張り切って診療中


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