コウノメソッドがピック病に著効!

 これは著効例と言っていいのではないでしょうか!コウノメソッドを始めて間もない自分ですが、患者さんの状態が非常によくなりあまりにも嬉しいので、ご家族の了承を得てご報告させて頂きます。

 生活習慣病を持つAさんが私の外来に通院されています。よいコントロールを保つためには食事や運動などに気を配る必要がありますが、日頃の生活について話を聞くと、それどころではなく。
どうやら認知症の奥さんがいて、一日中奥さんの陽性症状に振り回されている様子。どこかに連れて行っても、気に入らないことがあると怒って帰ってしまう。お店では自分の気に入った物を値段などお構いなしにボンボンかごの中に入れてしまい、買わないと怒り出す。

 コウノメソッドを本格的に学ぶ前からAさんから奥さんの話は聞いていました。とにかく「Aさんも主治医もこりゃ大変だ…」というのがその時の本音。遠巻きな傍観者ですね。何とかしようと思って聞いていた訳ではないのです。一人で介護負担をしょい込んでいるAさんの心の負担を、せめて話を聞き労を労うことで少しでも軽くできたら…というくらいの気持ち。

 ところがところが。コウノメソッドを学び始めた私は、Aさんの奥さん話を聞くだけでスルーすることが出来なくなってしまいました。この陽性症状の激しさはピック病では…?と思いたち、身を乗り出して奥さんの症状を聞くように。

・アイスを一度に5-6個食べてしまう(甘い物好き)
・テーブルに運んだおかずを、席につくやいなや全部勝手に食べてしまう(自分勝手)
・言うことを聞かないとばかり思っていたが、どうやらAさんの言うことがわかっていな
いみたいだ。(語義失語)
・急に怒り出して、それが過ぎるとケロッとする(スイッチ易怒)
・受診して名前を呼ばれても「私じゃない」と診察室に入ろうとしない(診察拒否)
・昔はお洒落だったのに、身の回りに構わない
・奥さんを置いてどこかに行こうとすると怒るので、どこにでも連れて行くはめに。(シャドーウィング)

ここまで揃えば、ご本人にお会いする前からピック病の診断がついたようなものです。他の病院に通院されている方なので、しゃしゃり出るのも何か…とためらう気持ちもありましたが、振り回されてお疲れのAさんのためという名目で、おそらくピック病だから、一度受診して頂けないかとAさんにお願いしました。

患者さんのかかりつけ医は知っている先生だったので、電話で「どうしても一度ピック病の患者さんが診たいので、一緒に治療させてもらえないでしょうか」とお願いし、了解を得ました。度量の広い先生でよかった。

 本人が嫌がって病院に連れて来られないかもしれないという話で当日はドタキャン覚悟で予約枠を取り、診察室でドキドキしながら待ちました。入ってきたのは案の定Aさんだけ。一応Aさんに診断名と基本的な治療方針を説明。その日はとりあえず陽性症状を抑えて穏やかにしようと言う方針でウィンタミン(4mg)6包分3で処方し、自宅で陽性症状に合わせて量を増減する「家庭天秤法」についても説明しました。またフェルガード100Mもお勧めしておきました。

(失敗談:この時は院外処方であったため、「4mgを6包分3なら8mgを分3でも同じことでしょ」という考えで8mg分3で処方されてしまい、後から処方しなおして頂くというアクシデントあり。院外薬局にも家庭天秤法について説明しておくべきでした。すみません。今はウィンタミンを院内採用しているので大丈夫です。)
説明を終えた私、どんな形であれ患者さんに接触しなくてはと、待合ホールで座っているAさんの奥さんに声をかけました。不機嫌そうに私の手を振り払い、立ち上がって夫の元へ。その感じの悪さ(ごめんなさい)たるや、これがピック感なのか…とかなり強烈な印象。頭ではわかっていてもこちらの医師としてのコミュニケーション能力に自信がなくなりそうです。

1週間ほどたって、Aさんから話を聞く機会がありました。

「ずいぶん穏やかになって、介護しやすくなりました。」

やった!どうやら朝はいくらかボーっとしているようですが、傾眠という訳でもなく、普通に話は出来るとのこと。再度、効かなければ増量、効き過ぎたら減らして、と説明。

1か月ほど経過した7月下旬、ついに初回に渡したプリントを読んだAさんが

「フェルガードという漢方は、ピック病にずいぶん効くようですね。試してみたい。」

と言ってくれました。(以後Aさんは、フェルガードを漢方漢方と呼んでいます。ちょっと違うけど、まぁいいか。)いよいよ次のステップに進んだか…と嬉しくなりました。

 そして先週のX-dayは、慌ただしくて大変な一日でしたが、同時にとても嬉しい一日になりました。Aさんが奥さんと来院。またしても奥さんは診察室には入ろうとはせず、Aさん一人で診察室へ。フェルガード100Mを開始して2週間での変化を報告してくれました。ちなみにウィンタミンもフェルガードも、全部ヨーグルトに混ぜて食べさせてくれています。

・夜中もテレビや電気をつけっぱなしだったのが、消して寝るように。
・これまでは起こさないと起きなかったのに、自分から起きて階下に降りてくるように。
・集中力が上がったのか、夫がつけたテレビを見られるように。
・介護する夫Aさんに「迷惑かけるね。」「ありがとう。」と言うようになった。

 最後の変化が、私にとっては何よりも大きな変化だと思いました。こんな変化を目の前で見ない訳にはいきませんので、当然待ち合いホールで接触を試みます。白衣の私の姿を見た患者さんは先日と同じように立ち上がりかけましたが、
「今日も診察させてはくれないんですか?」
と声をかけると、
「ごめんね~。」
と笑顔になり、両手で私の手をギュッと握ってくれました。Aさんが畳み掛けるように
「せっかくなんだから、診察していこうよ。」
と言うと、なんと立ち上がり、診察室の方向へ!!顔を見て一言二言でも言葉をかわせればそれでよしと思っていた私には、予想以上の展開でした。その変化ぶりに感動して、そしてせっかく少しだけ築いた人間関係を台無しにするのが怖くて、長谷川式もFTLD検出セットもできなかったヘタレの私です。

 10年間医者をやってきて、ここまで「薬が人間を人間らしくする」という場面に遭遇したことはありません。薬はコワい、薬は危険だ、というイメージは100%間違ったものではないしある意味健全な警戒心なのかもしれませんが、一方でこんな風に劇的に人生を豊かにしてくれる味方にもなりうる(まさしく毒にも薬にもなる)ということを実感する場を頂いたことに、心から感謝しています。

 ピックの‘ハッピーセット’を始めてまだたったの2週間。これからAさんと奥さんの間にどんな素敵な物語が紡ぎだされるのか、ドキドキワクワクしながら見守らせて頂きます。
[PR]
by kasama-hospital | 2013-08-13 05:07 | 認知症・介護

今日も張り切って診療中


by kasama-hospital

S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30

ブログジャンル